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その46

文豪のキャッチコピー集 宮沢賢治編

売れる文章講座

ルール 46

宮澤賢治のキャッチコピー(広告文案)集

注文の多い料理店の「広告文」を読んでみる。

 
 
今からもう数年も前のことですが、地元の仙台市文学館へ「宮沢賢治展 inセンダード 」という企画展を見に行ったことがありました。
その時に展示されていた資料の中で、とりわけ目について、個人的に強い印象に残ったのが宮澤賢治の「雑誌広告」の広告文(キャッチコピー)でした。
 
なぜ、そんなに強い印象を受けたのか?
それを確認したいと思いながら、なんだかんだと時間が過ぎて数年が経過してしまっていたわけですけれども、先日、ひょんなことがきっかけで、この広告の資料を目にすることがあったので、今回ここにまとめてみようと思います。
 


東北の雪の曠野を走る素晴らしい快遊船だ!
 
読む人の心を完全に惹きつけねばおかぬ真面目さと自信を以って

 
これは「赤い鳥」に掲載された「注文の多い料理店」のキャッチコピーです。
作者の気持ちの勢いといいますか、出版できる喜びといいますか、そのような熱いものが溢れてくるようなコピーだと感じました。「自信と真面目さを以って」ではなく「真面目さと自信を以って」とするあたりにも、賢治の人柄が出ているような印象を受けました。
※原文には「快遊船」に「ヨット」のルビあり
 
 

団樂の家庭  ……… をよりよく飾る
 
・自然の儘 即ち眞實と ………之か說明文の最も大切な要素ならば!!
・此のイーハトヴ童話は童話中の童話であると確く信じます

 
こちらは「注文の多い料理店」の「新刊案内」の広告文です。
「団樂の家庭」の部分のフォントが大文字になっているので、ここの一行がキャッチコピーということになるかと思います。
 
 

吾等の誇  ……… 童話中の童話としての
 
心悪程面白い    ……… そして麗しい
他の追従を許さぬ  ……… 美しさを以て
 
読む人々の心を完全に惹きつけねばおかぬ真面目さと
強い自信を以て生まれでたのが此の童話です。

 
こちらは、東京光源社が取引先向けに作成したと思われる「注文の多い料理店」の新刊広告ハガキの広告文案です。「吾等の誇」という部分に、迫力を感じますね。
 
注文の多い料理店の広告文は、青空文庫に収録されていますので、関心のある方は全文読んでおかれると、よろしいかと思います。
 


 

賢治の広告文案を巡るエピソード。

 
 
今回、赤い鳥の広告文案について、印象に残るエピソードを見つけたので合わせて紹介しておきます。賢治が広告文案として編集部に最初に提出したものには、
 

御希望の方はお知らせ下さればすぐ送本いたします。
お読みになっておもしろかったら代金をお送り下さい

 
という文章があったそうです。
この部分は掲載されなかったとのことですが、このキャッチコピーを作っていた賢治の頭の中には、どのような想いがあったのでしょうか?
 
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない(農民芸術概論綱要より)」と考えていた賢治にとって、自分の作品を読んでもらうことは「みんなにしあわせになってもらうため」の手段であったことでしょう。自己表現のためでもなく、評価を受けるためでもなく、それよりもまず「世界全体が幸福」になることを主軸にしていたことでしょう。
 
ぜひ読んでほしい。きっとよろこんでもらえる。はず。でも、もしも面白くなかったのなら・・・。そんなこと考えながら広告を作っている賢治の姿を想像してみると、せつないような、それでいてうれしくなるような、ふしぎな気分になりました。
  


伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝
 
 
参考資料:

LinkIcon写真集 宮澤賢治の世界 筑摩書房
LinkIcon青空文庫『注文の多い料理店』広告文
LinkIcon盛岡タイムス Web News

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