すべては模倣から始まる(2)
(その3)一人の作家を追求してみよう。
(その2)では自分が好きな文章を、手書きで写していこう。一冊、二冊とノートを積み重ねていこう。と、いう話をしましたが、この時注意しておきたいことは、ひとりの作家を選び、徹底的に追求すること、です。好きな作家を一人選び、その方の作品だけを、まずは徹底的に追求してみることを、おすすめします。
「深く付き合ってみて」わかること。
ある程度の情報量や知識を身につけ、実践経験を通して鍛え上げた技量がある場合は、乱読のように様々な文章、手当り次第に学ぶことも効果的です。しかし、基本を学んでいる段階では、よそ見をせずに「ひとり」に絞り込んだ方が多くのことを学べると、私は考えています。
例えば、手当り次第に女性を口説いている間は、口説く楽しさ、手に入れた喜びを感じますから、しかるべき充実感を得られるでしょう。毎回、新しい世界が始まったような気分にもなるでしょう。
でも「口説く技術」はレベルアップしても、それ以外の部分が成長していない自分に気がついた時に、大きな喪失感を感じてしまうかもしれません。相手が変わるだけで、結局は「同じこと」を繰り返しているだけだったということに、気がついてしまうのかもしれません。あまり例えが適切ではないような気がしますが、つまりそういうこと(?)です。
「わかる」瞬間がやってくる、その時まで
一人の相手と向き合って、一緒に色々なものを見て、色々な話をして、色々と共有したり、笑ったり感動したり、話し合ったり、ひたすら考えを交換していく中で自分の強さや弱さに気がつくように、「本気で何かを学ぼう」と考える過程の中に、一人の作家を追求していく時間が必要になると私は考えています。
もちろん対象とするのは、作家でも、コピーライターでも、アーティストでも構いません。この人のような文章を書きたい! と、自分が心から感じる人を選び掘り下げてみてください。やがて、水が突然沸騰する時のように、色々な意味で「何かがわかる」瞬間がやってきます。大切なことは飽きずに逃げずに続けることです。浮気(?)をするのは、その段階に達してからでも遅くはありませんよ。いや別に、無理に浮気する必要はありませんけどね。(その4)へつづく
伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝
リニューアルの追伸
一度「徹底的に追求した」あとは、一度距離を置いてみることも効果的です。家族や恋人でも、長い時間一緒にいすぎると「相手の良さに気がつきにくく」なりますね。他の人と交流してみることで、見落としていた相手の良さや自分が甘えていた部分に気がつくことと同じです。
(その4)成長には熟成させる時間が必要。
さて前回までの内容を実践したあなたは、「早く文章を書きたい」と感じていると思います。あの言葉もその言葉も、使ってみたい表現が、たくさん見つかっていると思います。
しかし、まだ、外に向かって表現するのは待ってください。
料理人を目指す人が、レシピを覚えただけで、お客様の前に料理を出したりはしませんよね? 何度も練習して、身内に試してもらったりしてから、ようやく厨房に立つと思うのです。
文章を書くことも同じです。毎日、当たり前のように使っている言葉だから、なんとなく「良さそうなものが書けそう」な気になりますが「書けそうな気がする」と「実際に書ける」との間には、みなさんが想像しているよりも、わりと深い溝があるんです。
まして、今の段階で書き始めてしまうと「真似をした作家」の文体の影響が強すぎて、単なる模倣で終わってしまいます。身に染み込ませ熟成させ、自分のものにする時間が必要なのです。
成長には、ある一定の情報量が必要
まずは「一人の作家」を追求する。手に入る作品を、すべて入手し読破し実際に手を動かして全力で吸収していく。この段階であなたは、練習を始めたころよりも、その作家の「すごさ」を体感しているでしょう。尊敬の念も強くなっているでしょう。
その尊敬の気持ちを大切にしながら、今度は尊敬する作家に負けないくらいの「自分の表現」を模索することを始めてください。ちょっと「いい感じの雰囲気の文章」ではなくて、練習して熟成させて繰り返し追求してみてください。
ひとつの目標として「3~4人」くらいの作家(表現者)を見つけて、同じような練習を繰り返してみることをおすすめします。一人だけでは影響が強すぎますし、その枠から飛び出せなくなります。複数の作家を吸収し、比較することでわかってくることもあります。成長するには、ある一定の情報量が必要です。繰り返しになりますが、外に向かって表現することを焦ってはいけません。(その1へもどる)
伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝
リニューアルの追伸:
学生のころ何かの本で『「学ぶ」と「まねる」の語源は同じ。まずは師匠のやり方を「まねる」ことから始めよう』という文章を読んだことが、今回のテーマを考えるきっかけとなった。文章を書く事が苦手な人も、新しい表現を模索している人も、中途半端にコピーするのではなく隅々までしっかりと「まねる」作業は、必ずあたらしい発見があるはずです。
追伸の追伸
本文では演習を重ねて「熟成」させてから外に向かって表現する。という内容で書いていますが、演習の段階からブログなどに文章を書いていくことで成長していく人も少なくありません。誰かの目に止まる、という刺激が表現のモチベーションになる人もいるでしょう。その場合は、本文の内容を頭の片隅に置きながら、どんどん外に出していかれるのも有効だと思います。自分に合った方法を上手に見極めながら成長を楽しめる方法を選択してみてください。
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