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ルール その10 言葉の天才に学ぼう。川端康成

 
素晴らしい作品は、冒頭の数行だけで、あっと言う間に作品の世界に引きこむ力があります。広告やホームページも、キャッチコピーと最初の数行で一気にお客さんの興味を引きつける必要がありますから、広告の勉強という視点からも「冒頭文」を読み込んでみることは、良い勉強になると私は考えています。学生の頃に暗記した古典しかり、近現代の日本文学しかり「冒頭文」だけでも、ぱらぱらっとめくって見てはいかがでしょう?
 
例えば、川端康成作品の冒頭文を読むと、目の前に作者が見ている風景が広がるような感じがしてきます。
 

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
 
川端康成「雪国」冒頭文より
 
道がつづら折りになって、いよいよ天城峠が近づいたと思うころ、
雨足が杉の密林を白く染めながら、
すさまじい早さで麓からわたしを追って来た。
 
川端康成「伊豆の踊子」冒頭文より

 
冒頭の数行で作品の世界観が伝わってくる文章は、まさに「名文」といった感じですね。さらに、この「雪国」は最初に書きはじめられた昭和9年から、川端康成が亡くなる前年、昭和46年に「定本雪国」が発表されるまでを含めると、推敲に30数年の歳月が費やされたといわれています。30年。生まれたばかりの子供が社会に出て活躍するくらいにまで成長できる年月です。それだけの時間をかけて推敲に推敲を重ねた文章を母国語で読めるということは、とても幸せなことなのかもしれません。
 
まだ読んだことがない人はいますぐに。以前読んだことがある人も、もう一度。じっくりと読み込んでみて、何か面白い発見があったならばぜひ教えてください。楽しみにしています。
 
 
※参考:
ルールその40「追う」から「映す」読書へ
佐藤の読書日記 七冊目:伊豆の踊子(川端康成)
 

川端康成
略歴

899 大阪市に生まれる。

1901 父死去。

1902 母死去。

1906 祖母死去。祖父と二人で生活するようになる。

1909 姉死去。

1914 祖父死去。豊里村の叔父に引き取られる。

1917 上京。浅草蔵前の従兄弟の家に居候。

1918 初めての伊豆旅行。以後、毎年行うようになる。

1920 東京帝国大学英文学科に入学。

1921 菊池寛の了承を得て、第六次「新思潮」を発刊。

デビュー作「招祭魂一景」を発表

1969 ノーベル文学賞受賞

1972 逗子マリーナのマンションにてガス自殺。

 
 


伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝

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