ルール 44 その言葉と「つながっている記憶」を考える。
言葉は「過去の記憶」で、できている。
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犬がむこうから走ってきた。
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と、いう文章を読んだとします。
今あなたの頭の中には「過去に見たことがある犬の姿」が浮かんだと思います。それは、10人いれば10人とも違う映像です。過去の体験は、それぞれ異なるわけですから、これは当然のことです。
あなたは「ふわふわして、おっとりとした犬」をイメージした。
Aさんは「昨晩テレビで観た、シャープでエネルギッシュな犬」をイメージした。
Bさんは「人が来ると大きな声で吠える、近所の犬」をイメージした。
Cさんは「小学校の下校途中に、いつも庭先で寝ていた大きな犬」をイメージした。
このように、過去の記憶が異なれば同じ「犬」という言葉でも、
頭の中に連想されるイメージには、大きな違いが生まれてくるのです。
そして「ここ」に意識を向けているかどうかが、言葉を選んでいく時に、
とても大切なポイントのひとつとなります。
あなたは「おっとりとした気分」を表現したい時に「犬」という言葉を使おうとする。
しかし、読み手は別のイメージを保有していて、異なる感情を抱く可能性がある。
なぜなら、自分がイメージしている「犬=おっとり」という組み合わせは、
絶対的なものではなく、個々人の過去の記憶によって、大きく異なっていくからだ。
まずは、この部分に意識を向けてみてください。
言葉の「記憶」を、探ってみよう。
言葉は「過去の記憶」とつながって成立しています。今、あなたが使っている言葉は、あなた自身が体験した記憶と共に成立しています。
あなたが伝えたいと思って選んだ「ことばのイメージ」は、読み手の中には存在しないかもしれない。全く別のイメージを想起させてしまうかもしれない。
自分は、この言葉に対してどのような記憶を持っているのだろう。
読者は、この言葉に対してどのような記憶を持っているだろう?
そこからどのように、イメージを広げていくだろう?
初めて「ここ」に意識を向けた時、そこはまるで井戸の底を覗き込んだ時のように、先が見えず手も届かない、はっきりと理解することができない世界のように感じられると思います。それでも一度そこを通り抜けた後に見える世界は、なんとなく言葉を選んでいた、今までとは異なった「おもしろさ」に気がついてもらえるはずです。
言葉は読み手の想像を広げていく、豊かで面白い力を持っている。
しかし、それは「曖昧で個人差が大きいもの」ということでもあるのです。
伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝
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