伝わる文章のルール19
「文章読本」三島由紀夫 を読む。
必ず『トリック =仕掛け』が、ある。
まずは、この文を御覧になって下さい。
誰にでも書けるように見えるごとく平易な文章、誰の耳目にも入りやすい文章、そういう文章にも特殊な職業的洗練がこらされていることは、見逃されがちであります。
(中略)
一例が雑誌やいろいろな広告に見られるキャッチ・フレーズのような文章も、文学的な意味合いの高いものではありませんが、それぞれ独自な目的に従って技法をこらされたものであって、決していわゆる素人の文章ではありません。
「文章読本」三島由紀夫 中公文庫 より(一部抜粋)
これは、作家・三島由紀夫氏の「文章読本」の中にある文です。「簡単に見える文章にも、実は様々な技術がこめられている」という部分に、思わずうなづいてしまった方も多いと思います。
■必ず『トリック=仕掛け』が、ある。
トリック、というと、ちょっと大袈裟ですが、一見すると普通に書いているような文章でも、思わず引き込まれてしまうような文章の背後には「技術や仕掛け」があるものです。見えないところで、読み手の気持ちを考え、上手に話を展開していくような、しっかりと考えられた「技術」があります。
一見すると、普通の文。こんなの「誰でも書ける」と感じる(思わせられる)文章ほど、実は「読ませる・伝える・行動させる技術」が、あるものなのですね。今回は、この部分を、しっかりと理解していただきたいと思います。「平易な文章、誰の耳目にも入りやすい文章、そういう文章にも特殊な職業的洗練がこらされている(同)」のですね。
■仕掛けを「見抜け!」
自分が「おもしろい」とか「思わず読んでしまった」という文章に出会ったのならば、そこで終わりにしてはいけません。面白く一気に読ませる文章には、しかるべき仕掛けがあるものだからです。なぜ、自分はこの文章を「おもしろい」と思ったのか?なぜ、自分はこの文章を「読み込んで」しまったのか?その理由と仕掛けを考えてみるのです。
一見すると普通の文章。誰でも書けるんじゃないか、という文章。でもその背後にある、膨大な思考の積み重ねと、そこから生まれる仕掛けの鮮やかさに気がついた時、また、今までとは違った「たのしさ」を、見つけることができるはずです。たいせつなことは「どんな言葉を使っているか?」ではないのです。その言葉は「どのような役割を持ち、どのような目的で用いられているのか」を考えることが、大切なんですよ。
伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝