ルール52 言葉が持っている力とは。
痛みを消すおまじない「ちちんぷいぷい」
子供のころ、ケガをした時に『ちちんぷいぷい いたいのいたいのとんでいけー』と、唱えてもらったりしませんでしたか?痛い部分をさすりながら、このおまじないをしてもらうと、本当に痛みが和らいだような気になったものです。
さて、ところで、この「ちちんぷいぷい」って何だろう? と思いませんか?
私(佐藤)は思いました。呪文なのか? どこかの国の言葉が変化したものなのか?ふと興味を持って調べたところ「三代将軍徳川家光の乳母である春日の局が家光をあやすのに唱えたことば」なのだそうです。
「知仁武勇御代の御宝(ちじんぶゆう)」
という言葉が変化して「ちちんぷいぷい」になったとのこと。春日の局が家光に対して「あなたは知力と武力に優れた、徳川家の宝」と、語りかけていた姿を想像すると、どこかあたたかい気分になりますね。
言葉は物語を作り、時間を越えて伝わっていく。
さて、ここからが今回の本題です。
今、私が書いた文章をご覧になった方は、これから「ちちんぷいぷい」と、いう言葉を耳にする度に、家光と春日の局の様子を思い浮かべることでしょう。そして周囲の人達に「この言葉には、こんな物語があってね」と、微笑みながら話してあげることでしょう。
そう。これが「言葉が持っている力」だと思うのです。
わずか数行の文章を読んだだけで、頭の中に新しい物語が生まれてくる。それを読み、考え、書いたり話したりして、共有することで、また新しい物語が加えられ、広がり育っていく。自分の知らない場所、時間を越えて、多くの人達のところへ広がっていく。そして、それを読んだ人から、笑顔が生まれる。次々と笑顔が生まれていく。10年も20年も、30年もの間、力を失うことなく、笑顔を産み出し続けていく。言葉には、そんな力があると思うのです。
今、ネット上には、人類史上最多の「ことば」が飛び交っています。そしてそれはこれからも増え続けるでしょう。言葉は誰かをしあわせにするのと同時に、誰かを損なわせる力もあります。どうせ書くのなら、しあわせになる言葉の方がいい。豊かで新しい物語が始まるきっかけになる言葉を使っていきたい。
今、あなたが書こうとしている文章は、3年、5年、10年の時を越えて、誰かの心の扉を開き、新しい物語が始まるきっかけになるかもしれません。
ちちんぷいぷい。
伝わる文章講座 佐藤 隆弘 拝